賃貸マンションの1室を改修した、フォトグラファーさんのためのスタジオ兼アトリエである。
タイトルにある「gradation」というキーワードは、フォトグラファーさんが映し出す光の濃淡やブルーモーメントの空など、限られた時間のその瞬間にしかない、儚げで感動的な光がもたらす現象から着想を得ている。
グラデーションとは、物事の段階的な変化、階調のことを言う。それは光の濃淡に限らず、空間的な居場所の性質の変化も当てはまるのではないか。
2LDKだった元の間取りを参考に、グレー色の壁が背景となる部屋、グレージュ色が背景となる部屋を要望として受けた。一方で、小さな個室は撮影対象との距離の取り方、また来たる未来の不確定なシーン撮影に対応が難しいため、自由度の高いワンルーム空間も求められる。居場所の性質は異なるがワンルーム状であるという相反する与件に対して、写真としては切り取ることができる性質の異なる居場所を、なめらかに連続する「グラデーション」でつないだワンルーム空間にできないかと考えた。
グレーからグレージュ、白へと段階的に色が変わる曲面の壁は、部屋の輪郭をつくる固定的な壁という役割を超えた、ワンルーム空間に光や人の行為の揺らぎをも伴った居心地を生み出す環境の“幕(veil)”として設えられている。
全てをスタジオとして使う時間があれば、全てをアトリエとして使う時間もある。また友人を呼べばダイニング空間になり、もちろん一人作業に集中することもある。当たり前のように移ろい続ける光のように、人の行為も変わり続け、同じ瞬間は2度とない。
柔らかな器のような空間として、これから起こる日常も、あらゆる特別な出来事も、変わり続ける状況を固定せず受け入れていく空間になってくれたら嬉しい。
DATA
竣工
2022.03
所在地
神奈川県横浜市
クライアント
Syuheiinoue
用途
写真スタジオ
設計期間
2021.09-2022.01
施工期間
2022.01-2022.03
延床面積
52.72㎡
CREDIT
施工
シャンティアートワークス
写真
倉本あかり
グラデーション塗装
中村塗装工業所